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景清さん投稿作品  リング・イン・ラブ 「前編」

[天凱空一郎]
「はい、ワンツー!」
「シッ!シッ!」
先輩の声の直後、俺はバシバシとミットに向かって左右のワンツーパンチを叩き込む!
「フック!!」
左フックをバシッときめる!
バシンッといい音がミットから響く!
すると先輩がミットを大振りに振ってくる。
それを俺はダッキングでかわし、
「ワンツースリーフォー!!」
ワンツー、フック、アッパーをミットに叩き込んだ!
「よーし、いいだろう」
ミットを持ってくれていた先輩が、そう言いながらミットを外す。
「ありがとうございました!先輩のおかげで、体は十分にあったまりました これであいつをみんなの前でぶち殺せますよ」
今までなめたこと言ってきたこと、後悔させてやる。
プロレスなんざ、所詮遊びなんだからな。
本気でやれば、ボクサーのパンチには勝てないんだよ。
「なあ、手加減はしろよ 相手は素人で女なんだからな いくらなんでも殺しちまったらシャレにならねーぞ」
「本当に殺しはしませんよ まあ、半殺しにはしますがね」
そう言った後、誰かが俺の背中にタオルをかけてくれた。
「あ、すいません」
誰かは知らないが、お礼を言っておく。
すると、この控室にいる先輩や同期たち、ボクシング部の部員全員が引き攣った表情になっている。
そしてさっきまでミットを持ってくれた先輩が見ているのは俺の真後ろ。

「言っておくけど・・・・・殺し合いじゃないよ・・・・」

すぐ近くで女の声がした。
「うわっ!!」
慌てて振り向くとそこには、
「正々・・・・堂々・・・・とね・・・」
ジャージ姿の、無表情な女子生徒が一人。
「あ・・・飛鳥・・・なんでお前が・・・」
先輩が恐ろしいやつに出会ったように言う。
いや、実際に恐ろしい人なんだがな。
この人はプロレス部の二年生で、俺がこの学校で一番苦手とする『飛鳥遊華』先輩だ。
飛鳥遊華で、アスカアスカと読む。
ふざけた名前だが、正真正銘の本名だ。
「あ・・・飛鳥先輩・・・・なんでここにいるんですか? プロレス部なんだから、あいつの側にいなくていいんですか?」
「大丈夫・・・舞ちゃんも空一郎くんも・・・大好きだから・・・問題ないの」
いつもながら会話が成り立たない・・・・相変わらず意味不明な人だ。
今ここにいるボクシング部の先輩達は、こそこそと逃げる準備をしている。
俺のこと見捨てる気だよ・・・・。
飛鳥先輩を恐れる人は数知れない。
常に超がつくほどのマイペースで、周りの人たちを巻き込んでいく。
おまけに俺と舞を気に入っているらしく、しょっちゅう俺らの前に現れては大小問わず被害を与えていく・・・・。
しかも、本人には一切悪気がないからたちが悪い。
正直、試合前に会いたくない人ナンバーワンといっても過言じゃない。
いや・・・・普段でもそうか。
ていうか、一体何しに来たんだよ!?
「アスカ先輩・・・・俺・・・何しに来たんですかと聞いているんですが・・・・」
「一つ・・・・・アドバイス・・・・」
すると先輩はいきなり俺を抱きしめた。
「ちょっ・・・先輩!いきなりなにをっ!?」
俺は慌てて離れようとするけど、レスラーであるアスカ先輩は俺をしっかりと抱きしめているので、離れられない。
そして、そんな俺の耳元で、
「立って・・・・そして・・・闘いなさい・・・・」
どこかの格闘マンガに登場したトレーナーのセリフを言うと、そのまま部室を出て行った。
俺をはじめ、ボクシング部の部員は唖然としてアスカ先輩を見送った。
あの人は・・・・・いったい何がしたいんだ?


[愛翔舞]
「これでいつでもOKです♪」
舞こと私、「愛翔舞」は試合に備えてストレッチとアップを終えました。
今日は学校の文化祭で、創立以来初の異種格闘技戦を行います。
プロレス部代表の舞と、私の大切な幼馴染でボクシング部代表の「天凱空一郎」くんの対戦でーす♪
空一郎くんはボクシングがとってもお上手なんだけど、ボクシングなんてキックも投げもサブミッションもないから、今日は絶対に舞が勝つのです!
「舞、絶対に彼の腕を折ったり怪我させちゃだめよ」
キャプテンさんが、舞に注意をします。
「大丈夫ですよー 空一郎くんが泣き出す前に放しますから♪」
さすがに怪我させちゃマズイですし、泣かしたりしたら舞が悪くなってしまいます。
でも、キャプテンさんは舞をとても心配そうに見ています。
うう〜〜たしかに試合で二人ほど病院送りにしちゃったことありますけど・・・・・・。
でも、ちゃんと反省して今は気をつけているんです!
「ただいま・・・・・」
控室のドアが開き、舞の一つ上の先輩の「飛鳥遊華」が帰ってきました。
「う・・・・アスカ先輩が帰ってきたのです・・・・」
不意にいなくなったから、安心していたのに・・・・・また少し不安になったのです。
アスカが二回も続く、とっても変わった名前なのですが、とっても強くて・・・・ある意味怖い先輩なのです。
なぜかというと、相手を気に入るとグランドでの攻防の際に胸とか股間とかを触ってくるからなのです。
しかもわざとじゃなくて、偶然を装ってやってくるのです・・・・。
舞も今までに、何回かやられているのです・・・・・。
だから舞は・・・・・えっと、他の人も思っていることなのですが・・・アスカ先輩とはスパーも試合もしたくないのです。
とりあえず、アスカ先輩にはかかわらないようにして試合の時間まで待つのです。
「舞ちゃん・・・・・」
う・・・・アスカ先輩が近づいてきたのです・・・・こわいのです・・・。
「は・・・はいなのです・・・」
「空一郎くんのところへ・・・・行ってきた・・・・」
「え?」
「アドバイス・・・・・したの・・・・」
「ええ!?」
アスカ先輩、もしかして舞の攻略法を!?
「アスカ、あんた!!」
主将が詰め寄ります
「勘違い・・・・しないで・・・・」
「え?」
「あなたにも・・・・・・同じ・・・・アドバイス・・・・」
そう言って、アスカ先輩は舞を抱きしめました。
「え・・・・ええ〜〜〜!?」
「立って・・・・そして・・・闘いなさい・・・・」
「はい?」
アスカ先輩は、以前空一郎くんの部屋で読んだ格闘マンガにあったセリフを言い出したのです。
「舞には・・・・・おまけ・・・・・・・・・・・チュ」
「ヒイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!」
おおおおおおでこにキスされたのです!!気持ち悪いのです!!百合は嫌なのです!!
試合前なのに、どっかの聖母がみていたようなイチゴな騒動な展開は嫌なのです!!
「う・・・・・うえええええええん!!」
「ああ、舞泣かないで・・・・ あ・・アスカ・・・あんたね〜〜〜」




『松涛高校文化祭』
校門の脇には、そのように書かれた大きな看板が飾られ、敷地内には生徒達の出店が多く立ち並んでいる。
この学校の文化祭は、結構有名で二日間の内、特に二日目に多くの人が訪れる。
その目的は、二日目に行われるイベントだった。
この学校には、格闘系及び武道系のクラブが多く存在する
空手・柔道・剣道・レスリング・古武術・少林寺拳法・キックボクシング・合気道・総合格闘技・ボクシング・中国拳法・プロレス。
この数は全国一である。
そしてそのクラブたちによる試合・演武が行われる。
試合を見せる流派もあれば、試合を行わない流派は演武を披露する。
それぞれの動きは、格闘経験者や武道経験者にかなり好評を得ていた。
経験者でない者も、この学園祭で初めて見ると感動を覚える。
そんな格闘イベントであったが、今年は今までと違った。

『開校以来のビッグマッチ!! プロレス部「愛翔 舞」 VS ボクシング部「天凱空一郎」

格闘イベントには試合も行われる。
しかしそれは、同じクラブ・流派同士の試合であって、他流試合・異種格闘技戦は行わないのが暗黙の了解であった。
それがこの年についに破られたのである。
それも男女対決という前代未聞の対決で。
当然学校中が大騒ぎとなった。
文化祭実行委員会にプロレス部とボクシング部からそのような申請が出されたときには、委員会にも動揺が走ったが面白そうという理由であっさりと承諾された。
そして新聞部は今回の事に連日二つのクラブに取材に訪れ、その記事はたちまち校内の話題となった。
しかし周囲としては、このあまりの事態にヤラセだろうと思われていた。
伝統ある学園祭の格闘イベントに、こんな茶番は不謹慎だと少数ではあったが抗議もあった。
だが実行委員会は、学園祭だからこそこういうのも面白いとその抗議を退けた。
今回の事の経緯について、二人はこう語っている。


[天凱 空一郎]
ああ、あいつとは幼い頃からの腐れ縁でしてね・・・・。
俺、小学生の頃からボクシングやっていたんですけど、あいつもそれに対抗したのかプロレス始めたんですけど、ボクシングじゃプロレスには勝てないとかしょっちゅう言っていましてね。
まあ・・・俺も「プロレスなんてショーだろうが!」と言い返して、その度に毎回喧嘩ですよ。
高校入ってからも、そのことでしょっちゅう喧嘩してましたし、そのときに「だったら、みんなが見ている前で決着つけようじゃねえか!!」って俺が怒鳴ったんですよ
あいつもやる気になりましてね
で、学園祭で決着つけようということになり、お互いの部のキャプテンにお願いしたら異種格闘技戦はご法度だと怒られちまったんで、生徒会に直談判したらあっさりOKしてくれたんすよ
え?今日の意気込みですか?
そりゃーもう、一ラウンドでドクターストップにしてやりますよ
女だからって手加減はしませんよ
本気で潰します!!

[愛翔 舞]
空一郎くんは、いけない子なのです!
いつも私、舞が面倒見てあげているのに、舞のこと馬鹿にしたりするんです!
しかも、プロレスまでも馬鹿にしたのは許せないのです!!
プロレスは最強の格闘技なのです!
しかも華がありますのです!
ただ殴り合うしかないボクシングとは、雲泥の差があるのです!!
まー舞は女の子ですし、空一郎くんに勝てないと思っている人も多いでしょうから、舞が空一郎くんを倒して舞が言ったことが真実だということを証明するでのす!」
それに、みんな舞が華麗に勝つことを期待していると思っているはずですし、みんなのためにも必ずかつです〜♪


この記事を読み、当初は多くの生徒が二人の周りに集まってインタビューの雨嵐となったが、二人のトレーニングを見ると面白半分で集まってきた者はみんな口を閉ざした。
本人達のトレーニングは、いつも以上にハードだった。
お互いに本気で相手を倒すべく、特訓の毎日である。
空一郎はボクシング部のトレーニングの他に、空手部やキックボクシング部・総合格闘部などの格闘系部活に出稽古に行き、蹴り技対策を行い、さらにレスリング部・柔道部・合気道部で投げ技や関節技対策をトレーニングした。
舞も同様にプロレスのトレーニング以外に、パンチ対策でこっそりとキックボクシング部でトレーニングを始めた。
キックボクシング部は、どちらも公平に指導をした。
どちらかを応援したりせず、お互い存分に闘えということである。
そして学園祭当日。
格闘系の部活のイベントが始まり、プログラム通りに各部活が演武および試合を披露していく。
その間に二人がウォーミングアップを始めた。
空一郎は勿論、舞もいつもの笑顔が消えていた。
その表情は、普段の試合以上の鋭さがあった。
そんな中それぞれの演武・試合が終わり、いよいよ出番となったのである。





「それでは、本日のメインイベントを行います!!」
リングアナウンサーの生徒会長「蔵元浩二」が、リング上でコールする。
「青コーナーより! ボクシング部、期待の新星「天凱 空一郎」の入場です!!!」
その直後に、空一郎の入場曲が鳴り響いた。
ロッキー4で使用された「バーニングハート」である。
そして、部員達に囲まれて空一郎は静かに花道をリングへ向かって歩いていく。
生徒達の声援にも応えず、ただ真っ直ぐにリングを見ている。
ただし、その表情は・・・・・ちょっと疲れていた。
(あーあ・・・・なんかアスカ先輩のせいで気力が萎えちまった)

『空一郎くーーん、がんばってーーーー!!』

女子生徒たちが声援を送る。
実は空一郎本人は、以外に女子にもてるのであるが、ボクシング一筋の空一郎にとってはどうでもいいことだった。
それでも声援を送られるのはうれしいものだが、飛鳥に抱きしめられて気力の萎えた空一郎には聴こえてこなかった。
(くそ、今は試合に集中するんだ!)
リングインして、Tシャツを脱いで軽くシャドーを行う。
(さっきのことは忘れろ!あいつをぶっ倒すことだけを考えろ!)
まだ相手の来ていないコーナーを睨み、パンチを打ちだした。


「ほら、舞!気持ち入れ替えて!あんたの好きな曲許してあげたんだから」
「は・・・はいです・・・」
「それに、あんたの幼馴染を絶対倒すって気合入っていたじゃないの ね?」
「そ・・・そうなのです!舞は絶対に空一郎くんに勝つのです!」
「そうよ!絶対に舞は勝つのよ!さあ、行くわよ!」
「はいです!!」


「赤コーナーより! 女子プロレス部の破壊天使「愛翔 舞」の入場です!!!」
その直後に入場曲が流れ出す。
テレビアニメ「涼宮○○○の憂鬱」のEDテーマだった!
舞も同学年の部員と花道に姿を現した。
しかも、アニメと同様のコスプレをしてダンスしながらである。
会場内は一瞬唖然となったが、その直後に空一郎以上の大歓声が起きる。
中には同じ振り付けを踊る者まで出てくる始末だ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



それをリング上で見ている空一郎は唖然となり、猛烈な脱力感に見舞われた。
舞はいわゆるオタクであった。
空一郎は舞の趣味に関わりたくはなかったのだが、それに巻き込まれることはよくあることで、そのためにこの元ネタもわかってしまう。
「なにやってんだよあいつ・・・・」
舞の入場にあきれるのと同時に、元ネタをよく理解してしまっている自分にもあきれる空一郎であった。
それでも、原作を読んで何気に面白いと思っていることも確かだった。


[天凱 空一郎]
「空一郎・・・油断するなよ あれも作戦かもしれないぞ 気合入れていけ!」
「いや、あいつはあれをやりたかっただけですよ・・・・」
セコンドについてくれた主将に、俺はそう言う。
あいつのオタク魂は半端ない。
舞は正式な試合での入場で、ああいうパフォーマンスをやりたかったらしいが、先輩や顧問から却下されたことがある。
今回は学園祭ということで許可されたんだろうが、すごいうれしそうだ。
あいつには油断させる作戦とか、そんな小細工ができるほど利口じゃない。
だけど、これだけのことしておいて俺にあっさりやられたらそれはそれで恥だけどな。
まあ、自分の馬鹿さ加減を知るにはいい機会だろう。


[愛翔 舞]
「う〜〜〜ん、ついにこれできた〜〜♪」
「舞ちゃん、よかったわね でも、部長が渋い顔しているわよ」
「大丈夫なのです、せっかくの学園祭なんだし了承済みなのです♪」
実は舞はアニメが大好きです♪
舞の好きなアニメのEDで、ヒロイン達が踊っているんだけど、それを入場で使いたくてダンスを覚えたのはいいけど、公式の試合でそれをやることは許可されなかったのです。
そうしたら今年の学園祭で試合することになり、学園祭ならということで許可をもらいました。
これでようやく披露する事が出来たのです!
空一郎くんは喜んでくれたかな〜〜〜・・・・・・むむ!馬鹿にするような顔してるー!
ハ○ヒの踊りを馬鹿にするのは許さないのです!
舞はこの難しいダンスを一生懸命練習して身につけたのに、それを〜〜〜〜!!
「ううう〜〜〜〜〜〜!!」
「舞ちゃん、なに怒ってるの?落ち着かなきゃだめだよ」
「うううう〜〜〜〜〜〜〜!!」


『本日のメインイベント!! ボクシング部と女子プロレス部の期待の新人同士の対決を行います!!』


リングアナの生徒会長さんがそう言うと、会場内に大きな拍手が沸きあがりました。
空一郎くんはジッと舞のこと睨んでいるので、舞も睨み返すのです!

『青コーナー 天凱ーーー空一郎ーーーー!!』

空一郎くんが、シュッシュッとパンチを出します。
う〜〜結構速いです・・・・でも、そんなの怖くないもん!!
キックボクシングのトレーニングだってしっかりこなしてきたんだし、パンチ対策もバッチリなんだから!

『青コーナー・・・』

あ、いよいよ舞ですね。

『愛翔ーーー舞ーーーー!!』

舞はみんなの歓声に、両手を振って応えます。

「両者中央へ」
レフリーである、総合格闘部の主将が舞達を中央に呼び、ルールを説明します。
ルールは目・急所攻撃以外は許されます。
肘も膝もOKなのです。
勝敗はKOかギブアップ。
完全決着なのです
「空一郎くん、お互い正々堂々と闘おうね」
笑顔で言ってあげます。
でも、空一郎くんは舞を睨んだままで、
「やめとくなら今の内だぞ 俺はお前を殺すつもりで闘う」
そう言ってきたのです。
空一郎くん、ひどい!
舞は殺し合いをしたいんじゃないのに・・・・。
でも、空一郎くんがその気なら、
「だったら、舞も空一郎くんの腕を折っちゃうから!」
そう言ってあげます!
「ふん」
空一郎くんはコーナーへ戻っていきます。
舞も、空一郎くんにむかってベーとやってコーナーへ戻ります。
そして、

「ゴングッ!!」

カーーーーン

いよいよゴングが鳴りました!


[天凱 空一郎]
いよいよ始まりやがったぜ。
そう、この馬鹿女をぶちのめすときがな!
あんな馬鹿女は一気にぶっ倒してやる!!
「いくぞオラアアアアアアアアアッ!!!!!」
俺はゴングと同時に舞に向かっていく!
戸惑う舞に、渾身のワンツーパンチを打ち込んでやった!!
「あぐうっ!!」
舞がバタンッと後ろに派手に倒れる!!
シーンとなる場内。
これでKO勝していればかっこよかったんだろうけど、そんなうまくはいかないものだな。
「ダウ・・・」
「ダウンじゃありませんよ」
カウントを取ろうとする、レフリーの稲田先輩を止める。
「え?」
「舞、さっさと起きろ」
倒れている舞にそう言ってやる。
舞は派手に倒れたが、俺の奇襲は成功していない。
あいつ、咄嗟に両腕でガードしていやがった。
「よいしょ♪」
舞が何事もなかったかのように起き上がる。
「いきなり奇襲なんてひどいよ〜〜」
頬を膨らまして、そう言ってきた。
ガキかよこいつは。
「ゴングは鳴ったんだ 反則じゃないだろーが」
俺は構える。
「む〜〜!だったら、舞も!!」
そう言って、俺に突進してくる!
牛かこいつは・・・。
「ファイッ!!」
慌てて稲田先輩が合図する。
「このーー!!」
何を考えたのか、いきなりドロップキックを放ってきやがった!!
「おわっ!!」
俺は横にサイドステップ!
当然、自爆する舞。
「・・・・・・・なにをやっているんだ?」
いつものことだが、やっぱりこいつはバカだな。
そんな大技が当たるわけないだろうに。
「うう〜〜〜〜」
恨めしそうな目で見る舞。
「お前・・・・・まじめにやる気あるか?」
「馬鹿にしてる〜〜! 舞はまじめだもん!!」
立ち上がって、ファイティングポーズをとる舞。
「ったく・・・・・」
俺も構えなおす。
俺の方も今度は奇襲は効かないだろう。
同じことを繰り返せば、逆に返されるだけだ。
俺は舞を中心にリングを回りだす。
それに、下手に向かっていけば組み付かれそうだ
舞は俺の方を向いて、その場で回る。
仕掛けてはこないな。
このままだと埒が明かない。
それに、見ている奴らだっておもしろくはないだろう。
だったら、俺から攻めていくのもおもしろい。
俺は跳ねるようにして間合いをつめる!
すかさず舞がガードの体勢になる!
やっぱり読んでいたか。
だが、それも承知の上だ。
俺はガードの上からラッシュを叩き込んでいく!
舞は両腕でガードしながら、体をくの字に曲げてガードする。
「どうした!終わりかー!?」
脇からフックを打とうとしたとき、
「お!?」
舞が俺にクリンチしてきた。
というよりも、胴体に抱きついてきたという感じだ。
「空一郎くん、つっかまえた〜〜♪」
こいつ、これを狙っていたか!!

「うらやましいぞーーこのやろーーー!!」
「ねらっていやがったなーーーー!!」

周りから変な声援(?)が聴こえてくるが、気にしている場合じゃない。
「放せ!!」
俺は舞を振りほどこうとする。
こんな間合いじゃ、パンチは効果がない。
「そーーーー」
「なっ!?」
俺の体が持ち上げられた!
「ーーーーれっ!!!!」
「ぐはぁっ!!」
ふわっとした感じがしたと思ったら、マットに叩きつけられていた!!!


[愛翔 舞]
「そーーーーーーれっ!!!!」
空一郎くんに抱きつき・・・・・あ・・じゃなくて、組み付いてスープレックスで投げちゃいました!!
ノーザンライトスープレクス♪♪
「ぐはぁっ!!」
これは空一郎くんも効いたはず。
観客のみんなの歓声がとても気持ちいいのです♪
舞は立ち上がってみんなに手を振って応えます。
あのままフォールしてもカウントをとられるわけじゃないし、この状態ならダウンでカウントがとられます。
「稲田先輩、カウント♪」
今回レフリーを務めてくれてる、総合格闘部の主将「稲田」先輩を促します。
「お・・おお・・・・ワン・・・・・ツー・・・・」
しかしそこで、
「っのやろ〜〜 やるじゃねーかよ」
空一郎くんが起き上がってきました。
やっぱり空一郎くんは、このぐらいじゃ倒せないようです。
「お前、意外にパワーあるんだな」
感心するように言ってきました。
「舞だってきたえているんだからねーだ 空一郎くんなんか、軽く持ち上げちゃうんだから!」
空一郎くんにベーっと舌を出します。
「てめぇ〜〜〜〜」
空一郎くんは、怒りながら構えます。
さあ、行きますよ〜〜!
でもそこで・・・・

カーーーーーン

1R終了のゴングがなりました・・・・。
「うう〜〜〜いいところだったのに〜〜〜〜・・・・・・・」
しかたなく舞はコーナーへと戻り、椅子に座ります。
「舞、いい感じだよ 落ち着いて冷静に対処していきな」
主将が水を差し出してくれます。
「はいです! 必ず勝つです!!」
うがいをして答えます。
反対のコーナーを見ると、空一郎くんも同じようにしていました。
そして、舞の視線に気付くと怖い目で睨んできます。
むむむ〜〜〜怖くなんてないんだから〜!
「いい? ローキックから組んで投げて関節 相手も警戒しているとは思うけど、これが最善の方法だよ」
う〜〜ん・・・・主将の言うとおりですが、舞はもうちょっと派手に行きたいのです。
ただ勝つんじゃ面白くないのです。
でも、反論すると怒られそうだから「はい」と言っておきます。

「セコンドアウト!」

2ラウンドめが始まります。
「いってきまーす♪」
舞は中央へと行くのです。
ついでに怖い顔した空一郎くんも出てきました。

『舞ちゃん、ガンバレーーーーー!!!』

男女問わず、観客の声援が聞こえてきました。
舞も手を挙げて、それにしっかりと応えます。
会場のほとんどは、すでに舞の味方なのです♪

「ファイッ!!」

2ラウンド目が始まりました!
今度は空一郎くんは動きません。
しっかりと舞の動きを見ています。
だからこそ、こっちから攻めて行ってあげるのです!
「えいっ!」
空一郎くんに左のローキックを繰り出します!
それを空一郎くんは、ちょっと下がってギリギリでかわしました。
ローキック対策もしっかりトレーニングしたようです。
でも反撃はしてきません。
牽制で蹴っているのがバレバレだからなのです。
これで飛び込んでくれば、タックル等で組みつかれることがわかっているのです。
でもいいのです。



舞は空一郎くんを中心に回りながら、牽制のローキックを放っていきます!
空一郎くんは冷静にかわします。
そして踏み込んでこようとすれば、舞は距離をとります。
攻めてもカウンターが来そうなので、ちょっと怖いです。
「どうした? 俺のパンチが怖いのか?」
「怖くないよーだ!」
舞は強がって見せます。
空一郎くんのパンチは予想以上に重かったし、あんなのまともに食らっちゃったら終りなのです。
パンチを食らわずに勝つ。
これ以外にあり得ないのです。
「トォーー!!」
舞は空一郎くんに、いきなりの低空ドロップキックを放ちました!!
「おわっ!!」
これにはさすがに驚いたようです。
そして、かわしきれずに片足にヒットしました!
「っ!!・・・・やろっ!!!」
空一郎くんが殴ってこようとするけど、それよりも先に空一郎くんの足にタックルをしかけました!
「えいっ!」
空一郎くんの両足を掴んで、マットに押し倒してテイクダウン!!
だけど、まだ関節にはもっていきません。
舞は素早く立ち上がって、空一郎くんの顔面めがけてミドルキック!!
「うっ!」
空一郎くんはとっさにガードしましたが、態勢が悪かったので再びマットに倒されたのです。
そこへ舞は、
「いっくよーーー!!」
「どあはああぁぁ!!!」
フットスタンプです♪
空一郎くんは苦しそうにお腹を押さえて転がります。
小柄な舞といえども、この技は効くのです!
少しの間、空一郎くんは立ち上がれないはずなので、舞は次の技へと移行します。
「お次は〜〜〜」
舞はコーナーポストへと飛び乗ります。
「舞ちゃん、飛んじゃいまーーす!!」
観客のみんなにアピールします。

「いけーーーー舞ちゃーーーーーん!!!」
「きめろーーーーー」

拍手と声援が湧き上がります。
それじゃあ、いきますよ〜〜〜〜!!
「とおーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
華麗に飛んで、フライングボディープレーーーース!!!!


[空一郎]
「く・・・そ・・・・」
舞のやつ・・・・調子に乗りやがって・・・・。
いくらあいつが軽いとはいえ、50キロ台の重さが腹に勢いつけて落ちてきたんだから、効かないわけがない。
腹筋を締めておけばもっとダメージは減らせていただろうが、緩んでいる状態だからかなりのダメージを食らっちまった。
このまま関節に持ち込まれたらもうやばかったが、あいつはまだまだいたぶるつもりらしくトップロープに上っていきやがった。
派手な空中技を見せるつもりかよ・・・・・とことん舐めやがって!

「とおーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

舞が飛んだ!!
今度はフライングボディプレスで潰す気だ!!
「そうは・・・・させるかーーーー!!!」
俺は転がって逃げる!

「ギャン!!!!」

案の定、舞はマットに墜落した。
そのあまりの間抜けさに、俺は少し笑っちまった。
会場内でも、笑い声が挙がった。
「うう〜〜〜・・・」
俺は立ち上がり、うつぶせに倒れて呻いている舞に近づくと、
「このダイバカがーーー!!」
「ぐうっ!!」
俺は舞を踏みつけてやった!
そして膝をついて、
「派手な技にこだわるからそうなるんだ!学習能力のない馬鹿女め!!」
ガシガシと殴りつける!
総合格闘技でおなじみの、マウントポジションはとらない。
そんなことすれば、間違いなく返されて自滅する。
「このバカ!バカ!バカ!バカ!」
「いたいーーー!! いやーーー!!」
体を丸めて転がって逃げる舞。
だが俺は深追いせずに立ち上がる。
すると、舞が俺に背中を向けたまま立ち上がろうとする。
こいつはチャンスだな。
「オラッ!!」
俺は一気に間合いをつめ、舞の背中の腎臓の部分にボディーブロー!!
「あぐうぅぅぅ!!!」
カクンと崩れ落ちる舞。
この部分はどんなやつだって、くらえば力抜けちまう。
できることならこれで起きあがらないでもらいたいものだ。

「ダウン!!」

稲田先輩がカウントを取る。
「ワン・・・・・ツー・・・・・」
「ううう〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜・・・・・・・」
呻いている舞。
「このまま倒れてろ な?」
俺は舞を諭すように言ってやる。
いくら馬鹿女でも、顔がはれるほどボコボコにするのは気が引けてきた。
幼いころからの付き合いだしな。
しかし、
「うう〜〜〜・・・まだまだだもん・・・・・」
よろよろと立ちあがってきた。
「シックス・・・・・セブン・・・・」
舞の前でカウントを取るレフリー稲田先輩。
そこで舞はしっかりファイティングポーズをとった。
「なんだよ、まだやる気かよ」
俺も仕方なくファイティングポーズをとる。

「ファイッ!!」

レフリー稲田先輩が試合を再開させた。
俺の忠告無視して向かってくるのなら、今度こそ倒してやる。
俺はすぐに間合いを詰めていく。
そして舞を中心にジャブを打ちながら回っていく。
ガードする舞。
さっきと同じようにガードする一方だ。
しかし、
「シッ!」
舞が不意にローキックを放ってきた!
「がっ!」
おれの左足にヒットした!
舞のけりとは思えない、結構重い蹴りだ。
キックボクシング部で鍛えてきやがったな!
「空一郎くん!!さっき苦しかったんだから!!」
俺をヘッドロックで捕まえてきた。


[舞]
「がっ!」
隙をねらって、舞のローキックが空一郎くんにヒットしました。
けっこうきれいに決まって、空一郎くんの動きが止まりました。
これはチャンスと、舞は空一郎くんをヘッドロックで捕まえました。
「空一郎くん!!さっき苦しかったんだから!!」
ギリギリと絞めつけながら、空一郎くんに文句を言います。
さっき後ろから殴られたときは、本当に力抜けちゃったし苦しかったのです!

「うらやましいぞ、天凱ーー!!」
「そのまま落とされろーーー!!」
「死ねーーーー!!」

舞のファンの男の子からそんな声が揚がります。
「どうです〜〜空一郎くん?、みんながうらやましがってるよー♪」
腰を捻って攻めながら聞いてみます。
「あが・・・ぐぐぐ・・・・」
空一郎くん、けっこう苦しそうです。
そして、何とか逃れようと舞の腰のあたりを殴ってきます。
でも、大して痛くないもん。
この間合いじゃ、殴ってもこたえないもんねーだ!
でもせっかくだから、このままギブさせる前にちょっと意地悪してあげようと思います。
空一郎くんの顔を、舞の胸に押しつけてあげるのです
「うぐぐぐ・・・」
「どうかな〜? 舞の胸、けっこう大きくなったでしょ?」
空一郎くんにだけ聞こえるように言います。
空一郎くんは呻いているだけですが、問題はないのです。
「84だよ ねえ、ギブアップしたら好きなだけ触ってもいいよ♪」
そう言って、ぐりぐりしてあげます。
「・・・お・・・・の・・・・・に・・・」
なんか空一郎くんが呻いています。
「興味・・・・など・・・・」
「え?」
空一郎くんの腕が、舞の胴に回ってきました。
「あるかあぁぁぁぁ!!!」
「きゃっ!」
舞の体が持ち上げられました。
「あううっっ!!!」
気づけばマットにたたきつけられていました。
空一郎くんがバックドロップをしてきたのです!
まさかプロレス技をつかってくるなんて、驚きなのです!
「自惚れるな、このバカ女ーーーー!!!
空一郎くんは舞を殴りまくるのです。
空一郎くんにもダウンした相手への攻撃は認められているので、反則ではありません。
それよりも、空一郎くんあんまりなこと言ってくるのです!
ちょっとショックなのです・・・・・。
「ううう〜〜」
舞は体を丸めてこらえます。
ちょっと痛いけど、こんな状態でのパンチなんか腕だけのパンチですから、大して効かないのです。
このまま丸めていて・・・・・
「どうしたオラァッ!!」
ついに空一郎くんが馬乗りになってきました!
今がチャンスなのです!!
舞は空一郎くんの足にしがみつきました!
「おっ!?」
次の瞬間、空一郎くんの胴体に足をひっかけて強引に後ろへと倒しました!
そしてそのまま裏アキレス腱固めに入ったのです!!
「あががががががが!!!」
綺麗に入っています。
これはもう極まったはずなのです。
空一郎くんもギブアップするしかないのです。
「天凱、ギブか?」
レフリーの稲田先輩が聞きます。
「あがががが・・・・ノーーー!!」
空一郎くんは暴れて強引に逃げようとします。
でも逃がしません!
「じたばたしても無駄なのです!!ギブアップ以外に道はないのです!!」
空一郎くんに叫びます。
でも、

カーーーーーーーンッ!!!

「ストーーップ!!」
2R終了のゴングが鳴ってしまったのです。
「む〜〜〜〜〜〜〜〜」
仕方なく裏アキレス腱固めを外します。
「もう少しでギブとれたのに〜〜〜」
舞はコーナーに戻ります。
空一郎くんも足痛そうにしながら戻って行きました。
セコンドの人たちが足揉んだりしています。
けっこう足にきているようですから、動きは少しは抑えられたかもしれません。
次のラウンドは、舞が攻めていこうと思います。


[空一郎]
「いててて・・・・・舞のやつ〜!!」
マウントをとった瞬間、これはいけると思ったのに・・・・舞のやつあっさり返して関節技を極めてきやがった。
もう堪えきれねぇと思ったら、ゴングに救われた・・・・・。
ったく・・・・マジでやられるかと思ったぜ。
やっぱり、なれないことはするもんじゃねーな。
「空一郎、投げに気をつけていつものボクシングをやれ!下手なことはするな!」
チッ、やっぱり言われたか。
だが、先輩の言う通りだ。
「足大丈夫か?」
同級生のセコンドが、俺の脚をもんでくれている。
「ああ、問題ない」
おかげで楽になった。
これでフットワークも問題ない。

「セコンドアウト!!」

3ラウンド目か
「さーて、さっきのお礼させてもらうかな」
俺はバシバシとグローブを鳴らしながら中央へと歩み寄る。
舞は軽く飛び跳ねて、リングを回りながら中央へ。
落ち着いていこうぜ俺・・・・・coolになれ天凱空一郎!!
下手に動けば、舞の思うつぼだぞ!
「ヤアーー!!」
いきなり舞がスライディングするようにローキックを放ってきた!
「うぐっ!!」
俺の左足にバシーンとヒットする!
足が痛いが、とにかく下がる。
「っのやろ〜〜・・・」
舞を睨むと、舞はマットに仰向けになったままだ。
「・・・・・何をしているんだお前は・・」
「空一郎くーん、さあおいで〜〜〜」
カモンカモンと手招きする舞。
もしかしてこいつ・・・・。
さっきのキックといい、このやり方といい・・・・アントニオ猪木とモハメド・アリの異種格闘技戦のマネかよ・・・・。

「天凱ーーー!!そのままおそっちまえーーー!!」
「俺に代われーーー!!」
「気をつけろよー!下手に近づくなーーー!!」

観客がうるせぇな。
それにしても・・・・こいつは娼婦か?
寝ころんで手招きなんてよ。
まあ、おいでと言っているんだから行ってやるか。
「ああ、行ってやるよ」
俺は歩いて近づいていく
こいつの足を蹴ってやる!
そんなこと考えていると、いきなり舞が起き上がって後ろへと下がる。
「お?」
俺は思わず身構える
「あは♪ びっくりした?」
「な・・なんのマネだ?」
「ん? ただからかっただけ・・・だよ!!」
そう言うなり、さっきと同じように蹴ってきやがった!
「うおっ!」
俺はとっさに足をあげてガードし、すぐに下がる!
おそらくこいつは、この蹴りの後に足に抱きついてくる気だろう。
そしてそのまま寝技に持ち込むつもりだ。
厄介なことしてきやがって・・・・。
だが、そんなものは二度は通用しない。
「こいつっ!!」
俺はステップして間合いを詰め、舞の足にローキックを放った!
こんなタイミングで出すのももったいないが、出稽古では密かにキックをしっかりとトレーニングしていたんだ!
対バカ女用にな!!
「いったーーーい!!」
舞の足にヒット!!
俺は立て続けに舞の足、けつに蹴りを入れる!!
俺がキックをしてはいけないというルールはないから、遠慮なく蹴りを入れる!
「あうっ! ああ!!」
舞が逃げるが、俺はそれでも蹴り続ける!
そして舞が立ち上がりかけたところで、左右のワンツーからのアッパー!!
舞はガードはしているものの、衝撃に耐えきれずにダウンした。



「ダウン!!! ワン・・・・・ツー・・・・・スリー・・・・・」

俺はコーナーに寄りかかりながら、舞が起き上がってくるのを見ていた。
直接はくらっていなかったようだし、これでKOできるとは思っていない。

「まだやれるか?」
「当然なのです!!

舞がファイティングポーズをとった。
よーし、またボコッてやるか!
俺はリング中央へと歩いて行き、ファイティングポーズをとる。
気づけば舞の顔から笑顔が消えていた。
マジな顔していても、どことなくたのしそうだったのだが、いまのこいつは本気で怒っているな。
ま、どちらにしてもぶっ倒すだけだけどな。
「来いよ!」
俺は舞に言ってやる。
すると、舞は左のローキックを放ってきた!
驚いた、まさか本当にやってくるとは思わなかった。
とりあえず、俺は下がってかわす。
そしてさらに左のローを放ってくる。
「ヤアッ!!!」
次の瞬間、舞が気合いと同時に体を回転させて跳んだ!!
空手の胴回し回転蹴り!
前田日明が得意としていた、大車輪キックだ!!
「おわっ!!」
不意を突かれた俺は、かわすことができずに両腕でガード!!
軽いとはいえ、体全体の体重が乗っかった大車輪キックだ。
当然俺はロープまで吹っ飛ばされた!
ガードした両腕も結構痛い。
舞はすぐに立ち上がって俺に組みついてきた!
「この!この!この!」
舞の膝蹴りが俺を襲う!
俺は何とかガードするけど、さっきので腕のダメージが残っているから、完全にガードができない。
なんとか離れたいが、舞はそうさせててくれない。

「いいぞーー舞ちゃーーーん!!」
「いけーーー!!!」
「決めちゃってーーーー!!」

声援が湧き上がってくる中、舞はさっきと同様におれの首を抱えてヘッドロックにする。
興奮して思考が低下したのかこいつは?
さっきと同じでバックドロップかましてやる!!
「いくぞーーー!!」
舞がそう叫び、俺が腰に腕を回す前にロープを駆け上がった。
「うわっ!!」
ロープから飛び上がった舞に押しつぶされた!
「がはぁっ!!!」
これはマジ効いた!
「よくも舞を怒らせてくれたわね〜〜!!」
舞がそのまま袈裟固めへ移行する
「ギブするなら許してあげるのです!!」
舞が俺の首をグイグイと絞めつける!
いや、それだけじゃない。
舞の胸が俺の顔を圧迫している!
周りから同じようなヤジが飛んでくるが、うれしい以前に苦しい!!
こいつ胸大きくなったとは思っていたけど、この状態ではまさしく凶器だ。
ハッキリ言ってうれしくない!!
「こ・・・のっ・・!!」
俺は空いている左手で舞の頭部を殴った!
しかしこの状態だから、あまり効きはしない。
だけど、これしか方法無いからひたすら殴る!
すると、やはり効いているのか舞が体を縮ませる。
こうなるとチャンスだ!
「あっ!?」
俺は一気に体をよじって抜け出した!
そうすることによって袈裟固めからは脱出できる!
柔道部のやつに聞いたんだが、体を前に倒して縮ませると逆に逃げられてしまうらしい。
柔道部にも出稽古行っておいてよかったぜ。
とりあえず離れないとな。
しかし、俺が立ち上がる前に舞がすでに立ち上がっていた。
まさかこいつ・・・わざと俺を逃がした!?
「トオッ!!」
舞が飛び上がった瞬間、俺の首に衝撃が走った!
「が・・・・」
一瞬くらっときて、俺は膝をついちまった。
延髄斬りかよ・・・・・。

「ダウンッ!!」

くそ・・・こいつにダウン奪われるなんて・・・・・。

「ワン・・・・・ツー・・・・」

KOなんて冗談じゃねえ!
「舞〜〜〜!!」
俺はしっかりと立ち上がる。
延髄斬りをくらったせいで頭は少しくらくらするが、この程度問題はない。


[舞]
「舞〜〜〜!!」
空一郎くんが立ち上がってきました。
綺麗に延髄斬りがきまったのに立ったのです!

カーーーーーン

あれ・・・・ここでゴングが鳴ってしまいました。
空一郎くんはゴングに救われたのです
「さすがゾンビのあだ名を持つだけあるのです!しぶといのです!」
「そんなあだ名ねーよ!」
空一郎くんは、そんなこと言いながらコーナーへと戻って行きました。
当然なのです、今つけたのだから。
「舞ちゃん、さっきのすごくよかったわ!この調子よ!」
主将から褒められちゃいました。
「はいなのです!今度こそきめるのです!!」
そう答えながら空一郎くんの方を見ると、首を冷やされています。
しかも袈裟固めなどで結構きているのかもしれません。
それに比べ、まだまだ舞は全然平気なのです!

「セコンドアウト!!」

4ラウンド目が始まるのです。
舞は立ち上がってリング中央へ行きます。

「ファイッ!!」