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景清さん投稿作品  リング・イン・ラブ 「後編」

[愛翔舞]

「ファイッ!!」

4ラウンドが始まりました。
空一郎くんは奇襲を恐れたのか、距離をとっています
だったらさっきと同じように、ローキックから攻めていくのです!!
今度は右のローキック!
左からだと感づかれることがあるのです。
でもそんなとき、空一郎くんがニヤリとしているのに気づいたのです。
なにか企んでいると感じた時には遅かったのです。
空一郎くんは左足をあげて、ローキックをガードしました!
舞は空一郎くんがキック対策していることを忘れてたのです!
「シュッシュッ!!」
舞がハイキックを出す前に、空一郎くんは間合いを詰めてパンチを打ってきました!!
左右のワンツーパンチです!!
「あぶっ!!」
舞の顔面にヒットしました!
その後に続いて、強烈な衝撃がきたのです!!
気づいた時には、マットに倒れていました。

「ダウンッ!! ワン・・・・・ツー・・・・・」

頭がくらくらします・・・・思うように体が動きません。
でも・・・・負けたくないのです!!
「あう・・うう・・・」
舞は必死に立ち上がろうとします。

「舞ちゃん立てー!立つんだーーー!!」
「がんばってーーー!!」
「天凱に負けるなーーー!!」

みんなの声援に応えなきゃ!
舞は渾身の力で立ちあがりました。
「大丈夫か?できるか?」
レフリーが聞いてきます。
「もちろんなのです!」
舞はファイティングポーズをとって答えます。
でも涙で目が霞んできます。
パンチをくらって痛かったからではないのです。
試合とはいえ、空一郎くんに殴られるなんて・・・・・・やっぱりショックなのです!
「まだやるのか? 立てたことは認めてやるが、ハッキリ言ってお前の打撃は見切っているんだよ!!」
空一郎くんは続けます。
「お前は飛び技が得意だけど、打撃は低レベルだ お前の打撃で倒される俺じゃない」
・・・・・・何発かくらっているくせによく言うのです。

「ファイッ!」

レフリーの合図の直後に、舞は動きました!
さすがに頭きました!
涙も拭かずに、さっきと同じで舞はスライディングの要領で空一郎くんの足を蹴っていきます!
アントニオ猪木とモハメド・アリの異種格闘技戦で猪木が使った戦法なのです!
「バーカ もう通用しねぇよ!」
あっさりかわされました。
でも、これも計算のうちなのです。
「空一郎くんの・・・・・」
舞が立ち上がろうとしたところを、空一郎くんが襲ってきます!
狙いどおりです
「バカーーーー!!!!」
舞は水面蹴りで空一郎くんの足を払いました!!
「おわぁっ!!」
空一郎くんが見事に倒れました
舞は、ひそかに中国拳法同好会にも出稽古していったのです。
そこで水面蹴り・・・中国拳法で言う「後掃腿」を学んだのです!
「女の子の顔を殴るなんて、最低!!」
舞は空一郎くんのボディーに、怒りのヒップドロップをしました!!
「うぐうぅおぉ!!!」
空一郎くんがもがき苦しんでいます。
でも、舞のお仕置きはこれだけでは済まさないのです!!
お腹を押さえているから、次は首を狙うのです!
「コノヤローー!!」
今度はギロチンドロップです!!
「げえぇっ!!」
潰れたカエルのような悲鳴とともに、空一郎くんの喉にきまりました!!
空一郎くん、苦しそうなのです。
でも、これだけで許してあげないのです。
舞のような美少女の顔を殴った空一郎くんには、もっとお仕置きが必要なのです。
「この!この!この!この!」
舞は空一郎くんに何度も何度もストンピングでふみふみします!
空一郎くんは、苦しみながらも体を丸めてこらえています。
そして、ただ踏みつけるだけじゃ気が済まないので、サッカーボールキックを空一郎くんの背中にたたきこみました!!
「ぐう!!」
けっこう効いたようです。
「せーーーのっ!」
ドゴンッ!と空一郎くんの背中をもう一回蹴りました!
「っ!」
空一郎くんは横へと倒れちゃいました。
さあ、そろそろいいでしょう。
舞は横向きに丸くなっている空一郎くんの腕を掴んで仰向けにします。
そして、マウントをとります。
「空一郎くん、絶対許さないんだから!!」
さすがに何もつけていない状態で殴るわけにもいかず、舞は平手で空一郎くんに叩き込んでいきます!!


[空一郎]
顔面にパンチ食らったことで、舞がキレやがった!
試合なんだし、ルール違反でもないのにキレるなんて、なんて理不尽な馬鹿女だ!
しかし、その後の猛攻で少しピンチに陥っている。
さんざん踏みつけられた挙句、背中を二発も思いっきり蹴りやがって。
おまけに今現在マウント取られちまった状況だ。
これは正直ヤバイ!
舞が手を振り上げて、ビンタをかましてきやがたんだが、俺はガードする
素手でなぐっちまったら反則だからな。
「空一郎くんのバカーーーーー!!!」
舞が泣きながらビンタの雨嵐を降らせてくる。
顔には当たっていないから、大して効かないけど・・・・・なんかこいつが泣いていると、ちと罪悪感も出てくるな。
おまけに観客は、今じゃみんな舞の味方だ。
「手ー邪魔!!」
舞が俺の腕を掴んで押さえつけようとする。
「こいつ・・・」
俺は渾身の力で押し返す。
そして左腕が振りほどけたから、左のパンチを入れてやった!
「あぐっ!!」
舞の動きが止まった
といっても、こんな体制で殴っても効果はあまりないだろう。
だけど、下手に動けばやられるのは分かっているから、この態勢で殴る。
「いつまでも調子こいてんじゃねーー!!」
俺は右腕も振りほどいて、舞の腹へとパンチを連打!
舞は上体起しちまっているから、この状態じゃ当たらない。
だからといって、ボディへのパンチも効いていないだろうけど
「舞をまた殴ったーーー!!」
舞が泣き叫びながら俺の左腕をつかんだ。
「悪い腕なんて壊しちゃうんだからーーー!!!」
腕ひしぎをかけようとしてきた!
「させるかー!!」
いまのこいつは、本気で俺の腕折る気だ
グローブしている状態じゃ掴めないから、俺はグローブをひっかけるようにして堪える
しかし、こんなもんで防ぎきれず、引っ張られていく
やばいだろこれ!!って思った瞬間、

カーーーーーーーーーーーーーン

俺はゴングに救われた。


「天凱、お前やばかったな・・・・・彼女キレてたし、本気で腕折ろうとしてたぞ・・・・」
「油断しちまいました・・・・だけど、今度こそマットに沈めてやりますよ」
舞のやつ・・・・俺をとうとう本気にさせちまったな。
今度こそ必ず仕留めて・・・・・・・仕留められるのか?
舞のやつ・・・思った以上に強い。
本来なら一ラウンドで終わるはずが、ここまでかかっている・・・・・。
勝てるのかどうか怪しく・・・・・ん?・・・なんだ?
舞のセコンドがレフリーを呼んだぞ。
なんか抗議しているように見えるな。
まさか顔面殴ったことに抗議しているんじゃないだろうな。
反則でも何でもないぞあれは!
「なんだ?レフリーどうするつもりだ?」
と、主将
見ると、レフリーがマイク持ってリング中央へ来た。

「えー会場の皆様、この次の5ラウンド目からは、愛翔選手の陣営からの要望で、オープンフィンガーグローブの装着を許可しました」

「なに?」
あいつ、オープンフィンガーをつけるだと?
なるほど、俺には勝てねぇとわかって、パンチを使ってグランドに持ち込もうってのか。
短絡的なやつだ。
まあ、だからといってやられるつもりもないけどな。
「空一郎、パンチに関しちゃお前とは比べ物にならないけど、気をつけろよ パンチをおとりに使う気だ」
「そうですね 予想していない攻撃をしてくる奴ですからね」
主将の言うとおり、たしかに油断できない
なにしろ、ここまで持ちこたえているんだからな。

「セコンドアウト!」

「さーて、行ってきますよ」
俺は立ち上がる
舞の方もすでにオープンフィンガーグローブをつけ終わっている。
涙で紅くなった眼で俺をにらんでいる。
こいつのファンなら、そんな表情も萌えとか言いだしそうだ。
・・・・・そんなことよりも、これでこいつがどう来るかわからなくなった。
さっきまで以上に警戒しないといけないな。

「ファイッ!!」

レフリーの合図。
俺はすぐには動かず、舞の動きを探ってみる。
舞は俺と同じように、アップライトで構える。
いや、こいつの場合はキックボクシング式だな。
「シュッ!」
舞が動いた。
パンチで来るかと思いきや、ローキックを放ってきた。
もうキックは通用しないということがわからないようだな。
俺はさがり、次はパンチだなと予測した。
そうしたら、本当に左右のパンチを打ってきた!
俺はそれをパーリングで弾く。
そして次はこう来るだろうな。
「おっと」
次の瞬間、舞のタックルが来た!
予想通りの攻撃に、俺は横に跳んだ。
それにより、舞がボテッと前のめりに倒れた。
「甘いんだよ、バーカ!」
俺は立ち上がりかけの舞に蹴りを入れてやる。
「あうっ!」
舞がよろけて倒れる。
俺だって、総合格闘部にも出稽古行ったんだ。
そういった攻撃は予測済みだ。
「くぅ〜〜〜!!」
舞は怒りの形相で立ち上がり、俺に前蹴りを放ってきた!
今度は空手か。
だが、俺は下がってかわす。
そしてまたタックルを仕掛けてくる!
甘いんだよ!
そう思ってかわそうとした瞬間、今度のタックルは違うことに気づいた。
舞が腕を縦回転に振り回した!
タックルと同時に、縦回転のフックを放ってきやがった!!
思いがけない攻撃に、
「ぐっ!!」
ガツッと俺の顔面にヒットした!
さすがにこれは効いた。
一瞬、クラッときたぞ。
ここでタックルされたら、間違いなくやばかったんだが・・・・舞は何を考えたのか、パンチのラッシュを浴びせてきた。
怒りにまかせて殴りまくっているという感じだ。
俺はすかさず両腕でガードしながら、体をくの字に曲げる。
しかし、舞の場合はオープンフィンガーグローブだ。
普通のグローブならガードできるんだけど、素手とあまり変わらない大きさのため、俺のガードをくぐりぬけてきやがる!
俺の頭部に、舞のパンチがガツガツと当たってくる。
「やろっ!!」
俺は隙を見て舞のボディにストレート!
ボゴッ!と、舞のボディに俺の拳が突き刺さった!
「ううっ!!」
舞のラッシュが止み、体がくの字に曲がる。
いい感じに入ったからな、ここでぶん殴って終わらせてもいいが、ちょっと遊び心が込み上げてきた。
「いくぞーーーー!!!」
舞の胴体に腕を回す
そして、渾身の力で持ち上げた!
プロレス技のパワーボムだ!
こいつをプロレス技で仕留めてやりたい。
しかし、
「こっっのーーーーー!!」
舞が叫ぶと同時に、俺の首が舞の足に挟まれた!
「うおおっ!?」
俺の体が前へ引っ張られ、マットに転がされた!!
たしかこれ、フランケンシュタイナーだっけか?
観客の歓声の中、舞はマウントをとっていた。
「うわああああああ!!!」
舞は必死な形相でパンチを降らせてくる!!
「させるかーー!!」
俺も同時にパンチを打ち出しながら体をよじった!
舞が冷静さを失っているせいか、何とか逃れることができた。
バランスを崩しながらも殴ってくる舞。
殴られながらも逃げる俺。
正直かっこ悪いが、そうも言ってられない。
俺は何とか立ち上がり、すぐに舞に殴りかかる!
左・右とワンツーが舞の顔面にヒット!
「死ねっ!!」
左フックがガツッと舞にきまった!!
「っ!!!」
舞は眼を見開いて、前のめりに倒れていく!
終わったな。
俺はそう思った。
「・・・・・・・あ」
だけど、マットに倒れずに途中で止まった。
それだけじゃなく、俺に組みついてきた!
「え?」
俺が気付いた時には、舞は俺の背後に回っていた。
次の瞬間、ふわりとした感覚がしたと思ったら、後頭部に衝撃が走った!!
俺は舞に投げ飛ばされた!
そう思った時には、マットに倒れた後だった。


[舞]
空一郎くんのコンボが舞の顔面にヒットしました。
その瞬間、舞は気分がフラッとなってしまったのです
『あ〜〜舞は空一郎くんにKOされちゃうんだ〜〜〜』
『負けちゃうんだ〜〜〜』
『やっぱり空一郎くんに勝てないのかな〜〜〜』
そんな思考が浮かんできたのです。
でも、
『そんなのヤダーー!』
そう思った時、舞は空一郎くんにしがみついていました。
それからのことは、無意識に体が勝手に動いていたのです。



舞は空一郎くんのバックに回り、ジャーマンスープレックスをかけていたのです!!
それもみごとなくらいに。
自分でも信じられないのです。
今までのトレーニングや試合でも、ここまできれいなジャーマンは初めてなのです。
あまりのことに、会場内がシーンと静かになりました。
舞は思いもしないことに、呆然と空一郎くんを見下ろしていました。
空一郎くんも信じられないという表情で、あおむけにダウンしています。
「あ・・・つ・・・・」
レフリーがカウントを取る前に、空一郎くんは頭を押さえながら立ち上がってきました。
「まだだ・・・・・まだ終わってねぇぞ舞・・・・」
空一郎くんがファイティングポーズをとった時には、舞はもう動いていました。
「このおおおおお!!」
舞は空一郎くんに殴りかかりました!
ラッシュです!ひたすらにパンチを打ちだします!
舞だってキックボクシング部で、パンチのトレーニングを積んでいるのです!!
舞のパンチでKOしてあげるのです!!
「このおおおおおおお!!」
舞のラッシュに、空一郎くんはガードを固めます。
「舞、組みついていけ!」
主将が叫ぶのが聞こえました。
でも、舞はそんなの無視しました。
がむしゃらに空一郎くんを殴りまくりなのです!
このまま殴り続けて、空一郎くんをKOするのです!!
しかし、
「あぐうううぅぅぅ・・・・・・・」
舞のお腹に強烈な衝撃が連続できました。
空一郎くんが反撃のボディーストレートを打ってきたのです!
舞は殴ることに夢中で、ガードが疎かになっていました。
そこをつかれたので、ものすごいダメージを受けたのです!
「ぅぅぅぅ・・・・・」
思わずお腹を押さえて蹲りそうになりました。
しかし、そうなるとダウンになってしまうのです。
だから、それだけは何とかこらえました。
そこへ、
「ぐっふううぅぅぅぅ!!!!」
今度は顎にものすごい衝撃が来ました!!
そう・・・舞は・・・アッパーをくらってしまったのです・・・・・・・


[空一郎]
くらくらする中、舞のラッシュに耐えながら舞のボディへストレート打ち込んでやった!
ラッシュに夢中な舞は突然の反撃に対応できず、見事に食らってくれた。
体をくの字に曲げて動きの止まった舞に、左のアッパー!!
「ぐっふううぅぅぅぅ!!!!」
舞は後ろへ派手にダウン!!
ただこの時・・・・俺は右じゃなく左でアッパーを打った。
自分でもわからないが、あの瞬間・・・・手を抜いちまった。
「ワン・・・・ツー・・・・スリー」
これで終わっただろうが、右だったら確実だったはず。
・・・・俺も甘いな
「フォー・・・・ファイブ・・・・」
「ぅぅぅぅ・・・・」
「な・・・」
舞が起き上がり始めた。
こいつ・・・まだ立ち上がる気かよ。

「舞ちゃん立てーーーーー!!!」
「がんばれーーー舞ちゃーーーん!!!」
「負けるなーーーー!!!」

「うううう〜〜〜〜!!!」
舞は観客の声援に応えるように、唸りながら立ち上がりやがった!
「く・・・・空一郎くん・・・・まだ・・・なのです・・・」
こいつ・・・・
ここまでやるかよ・・・・

「ファイッ!」

レフリーが試合再開させた
「舞、楽にしてやるよ!!」
今度は俺から攻めていく。
あいつはもうフラフラだ。
だから、一気に倒して終わらせてやる。
「シュッシュッ!!」
俺は左右のワンツー!
舞はさっきと同じように両腕でガードする
結局こいつはパンチじゃ俺には勝てねぇんだ
俺はラッシュをかまそうとする!
しかし、
「がっ!」
俺の顔面を、舞のパンチがヒットした!
こんな状態で、カウンターを当てやがった!!
「うわああああああ!!」
舞が雄叫びをあげながら左右の腕をぶん回し、俺にラッシュをかましてきた!
「う・・・ぐ・・・」
左右のフックが、俺にヒットする!
くそ!二発食らっちまった。
だが俺もすぐに殴り返す!
「あうっ!ぎゃうっ!!」
俺のジャブが舞にヒットしていく!
さすがに舞もたまらんだろう。
後三発も叩き込めば・・・・おっ!
「く・・・」
舞が俺にクリンチしてきやがった。
これはヤバイ!
あいつ投げ技に持っていくつもりだ!
俺はこの状態じゃパンチは使えないし、投げにいくのも難しい。
くそ・・・こうなったら!
「このっ!!」
「ううっ!!」
俺は舞の胴体に腕をまわし、ギュッと締め上げる!
ベアハッグだ!!
「あぐっ!」
舞が苦しそうな声を挙げた。
「こ・・・・のっ!!」
締め上げるだけじゃなく、その状態から持ち上げる!
はたから見れば抱き合っている状態に見えるが、これは地味に効く。
なにしろ、昔からよく舞にかけられていたからな・・・・・・愛情表現とか言って。
今度は俺から「殺意」を込めて締め上げてやる。
「うううう・・・・・くう・・・・・」
「愛翔、ギブアップか?」
呻く舞に、レフリー稲田先輩が訊く。
しかし舞は首を振り、オレの肩を押して離れようとするけど、俺は舞を放さない。
「ギブしろ オラッ!オラッ!」
俺は全力で舞を締めあげる!!
「あぐううううううっっ!!!」
舞が絶叫した!
これで終わるだろうと思った。
しかし、
「おわっ!!」
何を考えたのか、舞が俺の頭をギュッと抱きしめやがった!
そのせいで、舞の胸の谷間に押しこまれちまった!
「むぐぐぐぐぐ・・・・・ふぁにひやふぁる!!」
俺は胸に挟まれて、まともにしゃべれない!
しかもこいつ、思った以上に胸がでかい!
そのでかい胸のせいで口と鼻をふさがれて、マジで苦しい!!
「ふぁ・・ふぁなせ!!」
俺は舞を締め付けながらも、舞の胸から逃れようと首を振る。
観客のやつらは、うらやましいだのスケベ野郎とか叫んでいるけど、くらっている俺としてはこいつの胸は凶器でしかない。
この状態がどれほど苦しいと思っているんだ!
「そっちこそ放してーー!!くうううーーー!!」
舞は俺に胴体を絞められながらも、俺を抱きしめる手を緩めない。
お互いに我慢比べだ!
「ふーー!ふーー!」
俺も必死に締め上げるが、
「うーー!うーー!」
舞も必死に抱きしめてくる。
しかし、直接胸で口と鼻をふさがれている俺のほうが断然やばいぞ!
正直限界が来た。
「ふ・・・・・ふ・・・・・・・ぶふああっ!!」
ついにおれはベアハッグを放しちまった!
「あううううう〜〜〜」
舞が俺にしがみつきながら、力尽きたように崩れ落ちる。
さすがに効いたようだな。
「ゲホッ・・・・・ゲホッ・・・・・こいつ・・・・・」
俺はむせながら舞の首に手をまわす。
「っ!?」
舞がハッとなる。
しかし舞が動く前に、舞のボディに膝蹴りを叩き込んでやった!!
「あぐううううううううううううううううううう!!!!!!!!!!!」
舞が腹を押さえて崩れ落ちた。
これでダウンだろうけど、このまま放っておけばこいつはまた起きあがってくる。
俺はそう確信し、崩れ落ちた舞の背中に覆いかぶさって舞の胴体に腕をまわした。
「うおおおお!!!」
俺は渾身の力で舞を持ち上げた!!
プロレス技のパワーボムの体勢だ。

「えええええええええええええええええーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」

会場内から驚きの声が湧き上がる。
ボクサーの俺がプロレス技でとどめ誘うとするとは思わなかっただろう。
しかし、
「うっ!?」
勝ち誇った俺の首を、舞の足が挟んだ!!
次の瞬間、俺は前へと倒されていた。

[舞]

「あぐううううううううううううううううううう!!!!!!!!!!!」
空一郎くんからボディへのワンツーパンチをくらってしまったのです。
もう・・・・無理・・・・・空一郎くんに勝てない。
舞の脳裏にそう浮かんできました。
そんな時に、空一郎くんの腕が舞の体に巻きついてきました。
その直後に、
「うおおおお!!!」
舞を持ち上げたのです!
なんと空一郎くんは、パワーボムあたりでトドメをさすつもりなのです!!
そんなのイヤーーーーーーーーーーーーー!!!
舞は強く思いました。
すると、体が勝手に動いたのです!
舞の両足が空一郎くんの首を挟み、反転しながら空一郎くんを投げました!!
フランケンシュタイナーです!!
自分でも信じられないのです!
もう動けないと思っていたのに、舞の得意技が出るなんて。
「あっ!」
せっかく決まったと思ったのに、空一郎くんをマットに叩きつけたと思ったら、舞もバランスを崩して後ろへ倒れちゃったのです。
「く・・・・くそ・・・・・」
空一郎くんが起き上がろうとしています。
そうはさせないのです!!
「コノヤローーー!!」
舞は空一郎くんに組みついていきました!!



「うわっ!!」
自分の体を空一郎くんに絡めていきます!!
アントニオ猪木の得意技、卍固めなのです!!
「ぐああああああああああああ!!」
舞は空一郎くんを渾身の力で締め上げ、空一郎くんが絶叫します!
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
舞も叫びます!!
空一郎くんを破壊するつもりで締めつけます!!
空一郎くんも当然外そうとしますが、舞もそうはさせないのです!
渾身の力で絡みつき、肘でぐりぐりとやっちゃいます!!
「は・・・放せーーーー!!!」
空一郎くんは舞を殴ろうとしているようですが、この体勢で殴れるはずはないのです。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」



ひたすら空一郎くんを破壊しようと絞めつけていきます!!
そうしていくうちに、空一郎くんの抵抗が止んできました。

「ぎ・・・・ギブ・・・・」

空一郎くんが舞の体を叩いていることに気付きました。
ゴングが乱打され、レフリーが舞たちを放しました。
舞は勝ったのです。
その瞬間、
「ふう〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
「く・・・・・・・・・・」
舞と空一郎くんはそのままマットに崩れ落ちました。
空一郎くんは卍固めのダメージで、舞は溜まったダメージが一気に込み上げて立てなくなりました。
「舞ーーー!!」
キャプテンたちがリングに上がって、舞を立たせてくれました。
レフリーから手を挙げられると、勝ったんだなと実感しました。
会場中はものすごい歓声と拍手がわきあがっていました。
でも、舞は立っているのがやっとなのでそれに応えることができないのがちょっと悲しいのです。
「大丈夫か空一郎!」
「立てるか?」
空一郎くんも、ボクシング部の先輩に介抱されているのです。
先輩の肩を借りてようやく立っている状態です。
舞と変わらないのです。
「あ・・・・」
空一郎くん達は、そのままリングを降りて行きました。
試合後の握手と抱擁が・・・・。
「舞、ほら! 一言一言」
先輩が舞にマイクを差し出してきました。


[空一郎]
「あ〜〜しんど・・・・・」
誰もいないボクシング部の部室。
リングの上で俺は大の字に寝転んでいる。
あの後、立ち上がれずに先輩に運ばれていった俺は部室へ連れて行ってくれるようにお願いした。
その際に先輩達は何か色々と言っていたけど、何を言っていたのか覚えていない。
そしてここに到着したら先輩たちには、グローブを取ってもらったら席をはずしてもらった。
しばらく一人になりたかった。
「あ〜〜〜しんど・・・・」
俺はもう一度つぶやく。
今までの試合の中で一番きつかった。
プロレスラー相手というのもあるし、なにより舞が強かったことだ。
負けたことに関しては悔しいとか、ムカつくとかいった感情は湧いては来なかった。
あいつも俺も、試合のために必死にトレーニングして、それをすべて出し切ったんだ。
正直な気持ちとしてすがすがしい気分だし、いい試合をしたと思っている。
舞の卍固めをくらった時、体中がバラバラになるかと思った。
火事場のくそ力というのか、舞の中にあれほどの力が眠っていたことに正直驚いた。
さすがにあれは返せなかった。
どうあがいても外すこともできず、ついにはギブアップ。
あれだけ俺に殴られたってのに、大した奴だよ・・・・舞は。
さすがは俺の・・・・・・・・・・幼馴染だけはある。
そういや、今あいつはどうしているんだろうな?
もうすぐ後夜祭始まるし、そっちに行くのかもしれない。
あいつのことだから、ダメージから回復して普通にケロっとしていそうだ。
俺はというと、そんなもんに出る相手もいなけりゃ、気力もない。
それに最初からそんなものに興味はないしな。

コンコン・・・・

「ん? どうぞーー」
突然ドアがノックされ、俺はけだるい声で返事する。
同期の部員か、クラスのやつだろう。
「失礼しま〜〜〜す」
そして入ってきたのは・・・・。
「ま・・・舞・・・・」
ジャージ姿の舞が入ってきた。
両手には模擬店の食い物の入ったビニール袋。
いきなりのことに、俺はけだるさも忘れて上体を起こした。
「空一郎くん・・・・だ・・大丈夫?」
「あ・・・ああ・・・・お前、どうしたんだよ?」
「えっと・・・・その・・・空一郎くんが・・・そのぉ〜・・」
「ま・・まあ、上がってこいよ」
「う・・・うん、お邪魔しま〜す」
舞は俺がいるリングへと上がってきた。
「はいなのです」
俺の前に食い物を置いた。
「おいおい、こんなにどうしたんだよ?」
「いろんな人たちがくれたのです お祝いって」
「そうか・・・ああ、そうだ 舞、ナイスファイト」
俺は舞に手を差し出す。
「あ・・・ありがとうなのです! 空一郎くんも、ナイスファイト!」
俺達はしっかり握手する。
本来ならこのリングじゃなくて、あのリングでするべきだったんだけどな。
「空一郎くん、お昼食べてないでしょ? 舞も食べてないから・・・・一緒に食べるのです♪」
確かに俺たちの試合は午後だったから、昼はカロリーメイトを一箱食っただけだ。
舞もそんなもんだろう。
「悪いな、メッチャ腹減ってたんだ ありがたくいただくぞ」
とりあえず、俺の好きな焼きそばからいくか。
俺はふたを開けるなり、猛烈に食い始める。
「空一郎くん、ジュースもどうぞなのです」
舞は俺にコーラを差し出し、イカ焼きを食べ始めた。
「おう、サンキュー」
焼きそばを、あっさり食い終わった俺は、焼きそばのパックを取り出し、コーラを一口。
「空一郎くん、いい食べっぷりなのです♪ 舞もー♪」
舞もイカ焼きを食べ終わり、フランクフルトを取り出した。
こいつもけっこう食うんだけど、太らないから不思議だ。

そうしているうちに、舞が持ってきたものはすべて平らげた。
普通なら二人じゃ食いきらないような量だったが、俺と舞にはちょうどいいくらいだ。
「ねえ、空一郎くん」
「ん?」
「後夜祭・・・・どうする?」
「あー、俺はパス 出る気力も相手もいないしな」
「そう・・・なのですか・・・・」
「舞は出ないのかよ・」
「え〜〜と・・・一緒に行く人がいないのです」
「あっそ」
俺は適当に流した。
「舞は・・・空一郎くんと行きたいのです!」
「ええ〜!?やだよダリィ〜し それに今日激闘繰り広げた俺たちがダンスやるのもな〜〜」
「だったら、ここでやるのです♪」
「なに?」
「ほら、音楽も聞こえてきたのです! 空一郎くん、立つのです!」
舞は俺を無理やり立たせ、ゴミを速攻で片付けた。
「あのな・・・本当にやるのかよ・・・」
正直やりたくない。
だけど、
「空一郎くんが、どうしても嫌と言うなら・・・・もう一回舞とここで試合してもらうのです!」
「脅迫かよ・・・・わかったよ、踊りゃいいんだろ フォークダンスだろうと阿波踊りだろうとやってやるよ」
今すぐにこいつと再戦なんて、冗談じゃない。
そんなことするんだったら、こいつと踊った方がましだ。
「阿波踊りなんて踊らないのです」
そう言いながら、舞はジャージを脱ぎ始めた。
「お、おい・・舞!?」
俺は一瞬慌てるが、ジャージの下から現れたのは、舞のリングコスチュームだった。
「びっくりした?」
「下にコス着ていたのかよ・・・・脅かすな」
舞はフフッと微笑み、
「舞と・・・・踊ってください」
俺に手を差し出した。
「少しならな」
俺はその手をとった。
「そう言うときは、喜んでというのです」
「知るかよ」
俺達は少し笑った。
「ところでよ・・・・どう踊りゃいいんだ?俺はトレーニングしかしてなかったから、そんなの知らねぇぞ」
「あ・・・・舞もです・・・」
なんだよ・・・舞もかよ・・・・。
「こうなりゃ適当におどっちまおうぜ」
「うん!」
俺達は社交ダンスのように組み合って、でたらめな踊りを踊る。
当然曲には全然合っていない。
数時間前まであのリング上で死闘を繰り広げていた俺達だったけど、その時の殺意などもうすでにない。
いつもの幼馴染としての俺たちだった。
異種格闘技戦に発展した経緯も、もうどうでもいい。
ていうか、忘れちまった。
「あーもう無理」
一曲目が終わったと同時に、俺は座り込んだ。
試合の後にめちゃくちゃに踊ったんだから、仕方ないよな。
「舞も疲れた〜〜〜」
俺の前に座り込む舞。
お前も同じかよ。
てゆーか、だったら踊ろうとか言うなっての。
錯覚回復した体力を消耗しちまっただろーが。
「ねえねえ、空一郎くん」
「ん?なんだ?」
「え〜とね・・・その〜〜・・・本当は試合の後に、あのリングの上で言いたかったんだけど〜〜」
「なにがだよ?」
「舞は・・・舞は空一郎くんが好きなのです!! ずっと・・・・・空一郎くんが好きでした!!」
「なにっ!?」
いきなりの告白に、俺は固まった。
「舞・・・・お前・・・・」
「空一郎くんは・・・・舞を・・・どう思っているのですか?」
舞は真剣な表情で俺を見ている。
冗談で言ってはいない。
そりゃ、俺だってこいつのこと・・・・・・・・前から好きだったけどよ・・・・。
「わりぃ・・・まだ・・・・言えねぇ」
俺はそう答えた。
「え・・・」
「今はまだ・・・・言えねぇけどよ・・・いずれその・・・・その時が来たらよ・・・・」
視線をそらしながら言った。
なんでかわからないけど、俺はまだ舞にはっきり好きと言えるやつじゃないような気がする。
どうすれば、言えるようになるかわからないけど・・・・・その時には改めて俺から言いたい。

「それじゃ・・・・・私が・・もらうわ」



「うわっ!!」
「きゃあああっ!!」
いきなりの第三者の声に、俺達は飛びあがっちまった。
いつの間にか、リングの下からアスカ先輩が顔だけだしていた。
「あ・・・アスカ先輩・・・いつの間に!?」
「試合おわってから・・・・ここに来ると思って・・・・・リングの下で待っていたの・・・・」
リングに上がってきやがった。
「先輩・・・それは隠れていたというのです」
うわ・・・舞に突っ込みいれられているよ・・・・・。
って、そうじゃなくてだ。
「な・・・・なんでそんなことを?」
「・・・・・・秘密」
・・・意味わかんねー。
「舞ちゃん・・・・・・ふられちゃった・・・・だから・・・・・・私の彼女にしてあげる」
「エエエッ!!!やだっ!!!!」
舞が真っ青になって、逃げようとしたところを、
「私が・・・・・・いやしてあげるの・・・」
すごい速さで捕まえた!
いや、抱きしめた!
「ちょ・・・なにやってんですか!!」
俺は舞の腕を掴んで、自分の方へと引っ張る。
さすがに、こいつを変な道へと引きずり込まれるのを黙って見ているわけにはいかないだろ。
「アスカ先輩、こいつを変な道へと引き込まないで下さいよ それに、俺は舞をふっていませんよ」
「なら・・・どうするつもり?」
お、アスカ先輩怒ったのか?
「・・・・・・・」
俺は無言で構える。
アスカ先輩相手だろうとかまわねぇ。
ちなみにグローブ外したままだけど、この人相手だと殺す気でいかないとやばい気がする。
「ま・・・舞も相手になるのです!」
俺の隣で舞も構える。
するとアスカ先輩は、
「そう・・・・・・今日は見逃してあげる・・・・・またね」
それだけ言って、リングをおりていくと・・・・そのまま部室を出て行った。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
あまりにあっさりと帰って行ったから、俺も舞も呆気に取られた。
てっきり二対一のバトルとなると思っていたんだけどな・・・・。
「空一郎くん〜〜〜〜怖かったのです〜〜〜〜!!!」
さっきの奮起気も吹っ飛び、舞が泣きだして俺に抱きついてきた。
「あ〜〜よしよし、もう大丈夫だ」
こんな姿見ると、こいつに負けたのがものすごく情けなくなってくる気がするが、アスカ先輩相手だから仕方ないか。
しかし、あの先輩がこのままで済ますわけないよな・・・・・。
絶対なんかやってくるはずだ。
「せっかくの感動的な試合の後に、災難かよ・・・」
こうなりゃ、あの人が何してきても必ず粉砕してやる。